神戸YMCA 120周年を迎えて(三) 「YMCAキャンプへさあ共に行こう」
神戸YMCAは今年2006年5月8日、創立120周年を迎えます。節目となる今年、『神戸青年』ではその歴史とそれぞれの時代に神戸YMCAがなしてきた働きの核心にあるものをくみ上げ、現在と未来への道しるべをそこに見出したいと考え、「120周年を迎えて」と題してシリーズを展開しています。
第3回の今号では、今日のYMCAキャンプの理念と実際を見ながら、その源流もたどってみましょう。
YMCAで行っているキャンプは組織キャンプ、あるいは教育キャンプと呼ばれています。
巷では「キャンプ」というと大抵は1泊2日。テントで飯ごう炊さんをし、キャンプファイヤーとあわよくばドラム缶風呂くらいのイメージでしょうか。YMCAのキャンプは違います。
キャビンにとまり、大抵は自炊しません。また、基本的にわたしたちは1泊2日のプログラムを「キャンプ」とは呼びたくありません。ご存じでしょうが、神戸YMCAの誇る余島の主力キャンプはいまでも長期少年キャンプ(11泊12日)です。その起源は敗戦後の荒みきった社会・そして青少年に対する教育の補角としての働きかけを、と考えた神戸YMCAの主事今井鎮雄がその手段にキャンプを選び、穏やかな瀬戸内の余島(注1)という舞台で、グループワーク理論をその支柱とし、大学生ボランティアリーダー達と始めたキャンプにあります。あたかもその過程は1844年、荒廃した産業革命時代のロンドンで勃興したYMCA運動を彷彿とさせます。
「学び合う場としてのキャンプ」
さて、YMCAのキャンプは指導者→キャンパーという一方通行の学びではありません。互いに学び合う双方向性が特徴です。指導者もさることながら、「学び合い」の核心は実はキャンパー同士の関係性の中にあります。生活を共にするなかで、次第に明らかになって行くお互いの基本的な生活流儀の差異、それは言い換えれば「異文化」そのものであり、さらにはそこではお互いの「受け取り方の差」、「伝え方の差」、「感じ方の差」が現出してゆきます。それは一般社会のなかではともすれば埋没しがちな「個」と「個」が向き合う瞬間でもあります。これは必ずしも愉快な体験ばかりではありません。受け入れがたい他者の流儀や、開示できない自分への焦り、子どもといえどもある種の葛藤に直面することになります。そこでキャンパーは一歩踏み出すのも自由、とどまるのも自由です。
「共に揺れるリーダー」
YMCAのリーダーは「保育者」でも「先生」でもありません。どこにでもいそうないま風の大学生です。一般的な考え方からすると「善意は認めるけれど、頼りないのでは?」と思われるのも致し方ないかもしれません。まだ、生き方も、価値観も確立していない彼ら。ともすればすぐに揺れる彼ら。しかし、その「揺れる」姿にキャンパーは心を寄せてゆきます。キャンプ中に葛藤に陥ってしまったキャンパー。彼らに必要なのは「指導」でも「解説」でもありません。いつも一緒にいて、共に揺れてくれるリーダーの存在なのです。私達のように価値観が固定した「揺らがない」大人にはとうていできない業、聖書にある「喜ぶ人と共に喜び、泣く人と共に泣きなさい」(注2)を体現しているのが彼らキャンプカウンセラー(リーダー)なのです。
「自然と出逢い、他者と関わり、自分を発見する」
キャンプの魅力は自然の中で自然と人間本来が持っているリズムをシンクロ(同調)させることにあります。現代風の言葉で言うと「スローライフ」そのものです。夜が明ければ起きだし、アクティブな活動へ、日暮れと共に静かな活動に移るというゆったりとした時間、栄養バランスのとれた食事、適度な運動と休息が含まれた安全が確保された空間、そして仲間。 それら全ての要素がシンクロした瞬間、そこには化学反応が起こります。そのとき、普段の生活では実感することが難しい「友情」「協力」「奉仕」「信仰」「希望」そして「愛」が現実のものと確信できるのです。 それは 年前に須磨海浜で初めて行われた 神戸YMCAキャンプ(注3)の、今も変わることがない真実です。
さあ、この夏こそ、少し長いけれどもYMCAキャンプに参加してみませんか?
注1=余島少年キャンプ場 1950年開設 香川県小豆郡土庄町にある。
注2=ローマの信徒への手紙 章 節
注3=『神戸とYMCA百年』164頁
神戸YMCAキャンプの源流
神戸YMCAのキャンプの源流は、1914年夏に須磨海浜で行われた「天幕事業」(デイキャンプ)であるという記録があります。*『神戸とYMCA百年』164頁、344頁参照。
太平洋戦争の敗戦後、初のキャンプ事業は神戸電鉄三木沿線の広野で行われた山のキャンプであり、その後は淡路島の松帆の浦等を借用してキャンプを行っていたようです。*『神戸とYMCA百年』344頁参照。
1950年、余島キャンプ場開設。第一回の余島キャンパーを迎えました。この余島発見のいきさつは『神戸青年』2005年9、10月号の今井鎮雄さん(現神戸YMCA顧問)インタビューに詳しいですが、キャンプにふさわしい場所を捜し小豆島を踏査していた当時若手主事の今井さんが沖合約1kmにある余島を見つけ、手こぎボートを借り渡ったそのときが、余島キャンプ史の起点と言えます。今日、半ば伝説化している逸話です。 |
|